腸と免疫の深い関係
腸は単なる消化器官ではなく、免疫細胞の約6割が集まる「最大の免疫器官」です。腸の内壁には、パイエル板やリンパ組織などの免疫細胞が密集する領域があり、病原体の侵入を防ぎながら免疫応答を適切に調整します。
さらに、腸内には100兆個以上の細菌が生息しており、これらの腸内細菌が免疫システムを調整する役割を担っています。腸内細菌が健全なバランスを保っていると、腸のバリア機能が強化され、免疫細胞に適度な刺激を与えることで免疫の過剰反応を抑制します。しかし、腸内環境が乱れると、免疫の働きが低下し、風邪やアレルギー、自己免疫疾患などのリスクが高まることが分かっています。
腸内細菌が免疫をサポートするしくみ
①短鎖脂肪酸(SCFA)の産生
腸内細菌は食物繊維を発酵させ、酢酸・酪酸・プロピオン酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)を産生します。特に酪酸は腸の粘膜細胞のエネルギー源となるだけでなく、抗炎症作用を持ち、制御性T細胞(Treg細胞)の活性を促すことで免疫バランスを整える役割を果たします。
②腸内細菌による免疫トレーニング
腸内細菌が持つ成分(リポ多糖やペプチドグリカン)は、腸の免疫細胞(樹状細胞やマクロファージ)に適度な刺激を与え、免疫システムを鍛える重要な役割を持ちます。この刺激が適度であれば、免疫細胞は過剰反応を抑えつつ、病原体に対して適切に対応できるようになります。
③腸のバリア機能の強化
腸内細菌は善玉菌を優位に保つことで、腸のバリア機能を強化します。腸の粘膜が強化されることで、病原菌の侵入を防ぎ、全身の免疫システムが安定することが分かっています。
風邪や感染症と腸内環境の関係
近年の研究では、腸内環境の状態が風邪やウイルス感染症のリスクを左右することが分かっています。
例えば、プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)を摂取すると、風邪の発症率が約47%低下することが報告されています。これらの善玉菌は、腸内で免疫細胞を活性化し、IgA抗体の分泌を促進することでウイルスや病原菌の侵入を防ぐ役割を果たします。
また、腸と肺の間には「腸-肺軸(gut-lung axis)」と呼ばれる相互作用があり、腸内環境が整っていると肺の免疫機能も向上する可能性があります。例えば、短鎖脂肪酸が肺の免疫細胞を活性化し、ウイルス感染時の免疫応答を最適化することが示唆されています。
さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者では、腸内の有益な細菌が減少し、炎症を助長する腸内環境の乱れ(ディスバイオシス)が観察されることが分かっています。これは、腸内環境が全身の炎症を促進し、感染症の重症化を引き起こす可能性を示しています。
最新研究トピックス
①アレルギーとの関係
最近の研究では、腸内環境が花粉症やアトピーなどのアレルギー疾患の発症や重症度に影響を与えることが明らかになっています。特定の乳酸菌(L.カゼイやB.ロンガムなど)を摂取すると、アレルギー症状の軽減やIgE抗体の減少が確認されています。また、腸内フローラの多様性が低い人ほどアレルギーリスクが高いことも分かっています。
②自己免疫疾患との関係
腸内細菌の変化が1型糖尿病や多発性硬化症などの自己免疫疾患の発症に影響を及ぼすことが明らかになっています。腸内の特定の細菌が免疫反応を調整し、過剰な炎症を抑えることで、自己免疫疾患の進行を防ぐ可能性があります。腸内環境を改善することで、自己免疫疾患の新たな治療法が開発される可能性も示唆されています。
③ワクチン効果の向上
腸内環境が整っていると、ワクチン接種後の抗体産生が促進される可能性があります。近年の研究では、乳酸菌を継続摂取したグループではインフルエンザワクチンの効果が向上したことが確認されています。これは、腸内細菌が免疫細胞の活性化を助け、ワクチンの免疫応答を強化するためと考えられています。
④がん免疫療法との関係
腸内環境ががん免疫療法(特にチェックポイント阻害剤)の成功率に影響を与えることが分かっています。腸内細菌の多様性が高い患者ほど免疫療法の効果が良好であることが報告されており、特定の腸内細菌を増やすことでがん治療の成功率を向上させる可能性が示されています。
まとめ:腸を整えて免疫力を高めよう!
「病は腸から」と言われるように、腸内環境を整えることが免疫力の向上につながります。日常的に発酵食品や食物繊維を意識的に摂取し、適度な運動やストレス管理を行うことで、健康な腸を維持することが大切です。
腸の健康を意識した生活を取り入れることで、風邪や感染症に強い体を作りましょう!

参照:Mo SJ, Lee K, Hong HJ, Hong DK, Jung SH, Park SD, Shim JJ, Lee JL. Effects of Lactobacillus curvatus HY7601 and Lactobacillus plantarum KY1032 on Overweight and the Gut Microbiota in Humans: Randomized, Double-Blinded, Placebo-Controlled Clinical Trial. Nutrients. 2022 Jun 15;14(12):2484. doi: 10.3390/nu14122484. PMID: 35745214; PMCID: PMC9228474.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35745214/